天才的な産業人

JOSIAH WEDGWOOD

「天才的な産業人」ジョサイア・ウエッジウッド

1760年ごろからイギリスではさまざまな産業分野において、大規模な工場で大型の機械を使った大量生産、いわゆる「産業革命」が始まりました。その数十年後、1759年にジョサイア・ウエッジウッド（1730〜1795）によって創設された「ウエッジウッド」社は、良質な食器の大量生産に挑み始めました。この食器革命は世界で最初のことでした。「ウエッジウッド」社は発展の一途をたどり、現在でも「ジャスパー・ウェア」、「ファイン・ボーン・チャイナ」、「クイーンズ・ウェア（クリーム・ウェア）」、などと名付けられたシリーズの製品を生産・販売する、世界でも屈指の製陶会社となっています。ウエッジウッドの成功は「イギリス陶工の父」といわれるジョサイア・ウエッジウッドの業績の影響が大きく、18世紀後半に彼によって創られた製品やパターンデザインは、200年以上にわたって使用され、私たちにとっても馴染み深いものとなっています。

当時のヨーロッパ各国では、中国の景徳鎮や日本の有田で製作される純白の磁器に近いものを製造すべく、国の威信をかけて開発競争がなされていました。しかし、ウエッジウッドはその製法発見に見切りをつけ、黒磁器ともいえる「ブラック・バサルト」や、さらにブルーやピンクなどの地色をもった磁器に近い「ジャスパー・ウェア」を開発しました。

また、彼はブラック・バサルトやジャスパー・ウェアの装飾には、古代文明の遺跡発掘や遺物の収集が相次ぎブームとなっていたギリシャ・ローマ時代への関心に注目し、古典的な模様を取り入れました。そして1789年にジャスパー・ウェアの最高傑作といわれる「ポートランドの壺」を完成させました。ジャスパーの開発に最初に成功してから十数年にわたる研究・施策の結果であり、この作品にはジョサイアの時代や、社会の風潮を敏感に取り入る先見性、ギリシャ・ローマ様式を巧みに配置したデザイナーとしての卓越した力を見ることができます。

ポートランドの壺

ウエッジウッドのブランドロゴとしても用いられていた「ポートランドの壺」は、ウエッジウッドの代表的な素地であるジャスパーで、ローマ時代の遺物であるガラス製の「ポートランドの壺」を模したものです。

オリジナルの「ポートランドの壺」は、1582年、ローマのアッピア街道沿いの古代ローマ皇帝の墳墓で発見されたと伝えられていて、紀元前27年から西暦14年の間に、アレクサンドリアで修業を積んだ職人がおそらくローマで製作したと考えられています。発見後、イタリアの枢機卿や、資産家一族が所有していましたが、一族最後の女性がギャンブル好きであり、その返済にあてるためローマ在住のスコットランド人に売却されました。彼は古美術収集家でありディーラーでもあったので、イギリスの伯爵に壺を売却し、その後、現在の呼称にもなっているポートランド公爵夫人の手に渡りました。

ジョサイア・ウエッジウッドは、この壺の素晴らしさを知り合いより聞かされており、ジャスパーで模倣したいと考えていたので、この作品を1年間借り受け、数年の歳月をかけてようやく40点ほどのジャスパー製のポートランドの壺を完成させました。安定感のある器形、精巧なカメオ装飾、黒と白のすっきりとした色使いなど、模倣するには高度な技術を要求されましたが、ジョサイアの研究の成果によってオリジナルに近い完成度の高い作品が作られました。ジョサイアが作ったポートランドの壺の完成度の高さは、オリジナルのガラス製「ポートランドの壺」が破損した折に、ウエッジウッドのポートランドの壺を参考にして修復したという逸話があるほどで、現在では二つのポートランドの壺が大英博物館の同じ部屋で展示されています。

ポートランドの壺のレリーフは、ギリシャ神話の登場人物をモチーフにしており、トロイア戦争の英雄・アキレスの両親であるぺレウスとテティスの結婚の様子が描かれています。この題材は西洋美術の主題として知られているため、結婚祝いの品として製作されたものと考えられています。門柱の前に立っているのがぺレウスで、テティスは中央の石に横たわるような格好で座っています。底面のレリーフは「パリスの審判」で知られるパリスだとされています。

ジャスパー・ウェアは1774年に完成しましたが、完成までに4年あまり1万点に及ぶ試作品が作られました。陶器の素材は同じでも、地色を出すために加える顔料によって焼成後の収縮率は微妙に異なります。このため、薄いカメオを色付きの陶器と合体させる作業は困難を極めました。

▼ Archive of WEDGWOOD ▼

過去のウェッジウッドの特集記事をご紹介します（ページ内の商品は一部完売している場合がございます）